une Sable nouvelle a L'eau de rose 初夜シリーズ

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  初夜1『桃色の初夜』

 「いろいろあったね……」
 聖さまが言う。
 壁の向こうを透かし見るような、そんな遠い目をして。だから。
 「はい」
 いろいろありましたね、って、祐巳も応えた。聖さまが見るものを見るようにして。
 聖さまはその応えに満足したようにほほえんで。ちょっと目を閉じて。
 「というわけで祐巳ちゃん」
 「はい」
 「いろいろあって、私たちは恋人どうしだ」
 「はあ、まあ」
 「さあ、ししししようね! こここ恋人どうしがすることを!」
 がばっ。
 なんて音、本当にするんだ、じゃなくて。
 聖さまは凄い勢いでこっちに振り向いた。うわ、目が血走ってるっ。よだれがっ。
 (ひぇ……っ)
 「さ、さよならっ」
 祐巳はベッドの上を赤ちゃんみたいにはいはいして逃げた。もうかっこなんかかまってられない。
 「んふふ、逃さないよ、祐巳ちゃん」
 後ろで聖さまが言って、なんかスイッチを入れる音が。
 ういいいい……ん。
 うわ、ベベベ、ベッドが回ってる?
 祐巳がようやく丸いベッドの端にはいはいで逃げ切ったと思ったら。
 目の前には聖さまの笑顔。
 「どどど、どうしてっ」
 いや、どうしてって言っても、どうして聖さまから逃げたのに聖さまのもとに来たかは、わかってるんだけど。
 「……お尻も可愛いかったよ、祐巳ちゃん」
 「ひええっ、や、やあ。やめましょう聖さまっ。やめます恋人っ」
 「ダーメ!」
 「いやああっ」
 「栞!」
 「うわ幻見てるし、最低!」
 
 その後どうなったかなんて。
 私には報告できません。


  初夜2『白い初夜』

 「いろいろあったね……」
 聖は言った。
 視線を上げても、そこには壁があるだけ。けれどその向こうに、たくさんの思い出が透かし見えるような気がして。
 「はい」
 いろいろありましたね、と、志摩子も応えてくれる。聖が見ているものをきっと見ている、澄んだ瞳。
 聖はそんな志摩子に満足して、ほほえんだ。
 そして目を閉じる。勇気よ。
 「志摩子」
 「はい」
 「とうとう私たち、恋人どうしになっちゃったね」
 「はい」
 目を開けて振り向いた聖の視界には。
 「志摩子」
 「はい」
 「……ギンナン袋よけといたら? 誰も取らないから」
 「あ、そ、そうですね」
 こぼれないように、などとつぶやくにも熱心に、志摩子は膝の上のギンナン袋をわきに置いた。でも。
 ぽろぽろとこぼれてしまう、伏せた志摩子の瞳から、銀色の雫たち。
 「志摩子」
 「ごめんなさい、うれしくて……」
 聖へと顔をあげる志摩子。切なさとよろこびとで、瞳を濡らした美しい少女。
 こみあげる愛しさを聖はこらえる。
 「志摩子」
 「お姉さま」
 「聖って呼んで」
 「聖さま……約束どおり、私を焼き尽くして下さい」
 「や、焼き?」
 焼き尽くす?
 私そんなこと言ったっけ? キツいっていうか、ハードっていうか。
 めちゃくちゃにして、とかでしょ普通は。いや、これも充分ハードか。なんて。
 「聖さま」
 「はいい?」
 「その前に、たった一つ、私のお願いをきいて下さいますか?」
 なんかやっぱ苦手かも、志摩子とのこの距離、なんて思っていた聖は不意を突かれた。
 「も、もちろん」
 「本当!? よかった……」
 両手を合わせて、幸せそうな志摩子はとても綺麗だ。綺麗なんだけどさ。
 嫌な予感がするまま、聖は一応、訊いてみる。
 「で、お願いって?」
 「そう! シスターになって下さい、聖さま」
 私と一緒に……きゃっ、なんて頬を両手で包んで、照れてうれしはずかしモードの志摩子なんて実に珍しい。江利子じゃないけどいいもの見た。じゃなくて。
 シスター!?
 一緒にシスターになれ!?
 (ひぇ……っ)
 「さ、さよならっ」
 聖はベッドの上を赤ちゃんみたいにはいはいして逃げた。もうかっこなんかかまってられない。
 「ひどいわ聖さま、たった一つのお願いなのに」
 「だ、だって」
 だって、修道院は宿敵なんだよお!
 「うふふ、逃がしませんよ、聖さま」
 後ろで志摩子が言って、なんかスイッチを入れる音が。
 ういいいい……ん。
 なんとぉ! 志摩子がベッドを回した!?
 聖はそれでも志摩子から逃れるように、丸いベッドの回転に逆らうように、ぐるぐるとはいはいで逃げまわる。
 にもかかわらず、聖のわきには志摩子の笑顔。
 「ど、どうして!」
 「予習しましたの。お姉さまの、聖さまの妹ですもの……」
 聖のはいはいにあわせてベッドのまわりをゆっくりと歩く志摩子。まるで散策するような足取りで、可愛い握りこぶしを口元にあてて、クスクスと笑いながら。
 ふう、ふう、と息があがる聖。はいはいするのも疲れてきた。
 「……お尻も可愛い、聖さま」
 「ひいいっ、や、やめ。やめよう志摩子っ。恋人終了っ」
 「だぁめ!」
 「いやああっ」
 「修道院もすごいんですよ、いろいろ。ほら」
 「うわ何その道具、最低!」
 
 その後どうなったかなんて、私は報告したくない。
 むしろ帰りたい、いばらの森に。
 はいつくばってでも。


  初夜3『桃色の初夜2』
 
 「いろいろあったね……」
 聖が言う。
 壁の向こうを透かし見るような、そんな遠い目をして。だから。
 「そうね」
 いろいろあったわね、と、蓉子も応えた。聖が見るものを見るようにして。
 聖はその応えに満足したようにほほえんで。ちょっと目を閉じる。
 「蓉子」
 「なに?」
 「とうとう私たち、恋人どうしになっちゃったね」
 恋人。
 胸を打つ鋭い甘やかさに、蓉子は答えようと開いた唇をただふるわせて。
 「聖……こんな時、なんて言ったらいいの?」
 胸が熱くって、指先まで甘くって、もう、それだけ言うのでせいいっぱい。
 「蓉子」
 「お、教えて欲しいの、聖に」
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
 「やっぱこっぱずかしいや、やめよ蓉子」
 「……だったらこんなとこ連れ込まないでよ!」
 「じゃあとりあえず、ベッド回す?」
 ういいいい……ん。
 「最っ低!」
 
 蓉子はグーパンチで聖を殴ったのだけれど。
 そのこぶしの感触に、つい普段の幸せを感じてしまう。
 そんな蓉子だった。


  初夜4『サーモンピンクの初夜』

 「いろいろあったね……」
 聖は言った。
 視線を上げても、そこには壁があるだけ。けれどその向こうに、たくさんの思い出が透かし見える。
 「いろいろあったわね……」
 ほんとうに、と、江利子も応えてくれて。きっと私が見るものと同じものを見てくれていると、聖が振り向くと。
 はああ、とため息をついた江利子は、いつものように物憂げな目をこちらに向けた。
 「なに?」
 いや、なにって。ひどいよ江利子。
 けれど聖はめげないで、とっておきの口説き声で。
 「江利子」
 「な、何よ」
 やった、さすがの江利子も赤くなった。
 「とうとう私たち、恋人どうしになっちゃったね」
 「ああ、そのこと」
 なっちゃったわね、なんてつぶやいて、また物憂げに目を伏せる江利子。ひどい、ってば、だから。
 「本当に、どうしてこんなことになっちゃったのかしら」
 ひ、ひどいっ。
 聖はこらえきれなくなった。江利子の仕打ちに。いけない、涙が出そう。
 「こ、後悔してるの? 江利子」
 江利子はさすがにあわてた様子で。
 「後悔なんかしてないわよ。本当。うれしいわ、こんなふうに、聖と」
 いっしょうけんめいになって言葉を紡ぐ江利子。その瞳が熱を帯びたのを見て、ようやく聖も報われた気持ちになる。私って、けっこう安いのかも。
 江利子は聖の頬をつたう涙の流れをそっと撫でて、言った。
 「私のために聖が泣いてくれるなんて、思わなかった」
 「江利子」
 ときめいて、頬の手に手を重ねる聖。
 「もっとよく見せて……」
 江利子の顔が近づいてくる。
 「え、江利子ぉ」
 息がかかるほどの距離。
 瞳を見つめる瞳。
 ああ、とうとう、私たち。
 聖は目をつぶって、唇をそっと差し出した。
 「ふむ……あ、これ、何のスイッチ?」
 ういいいい……ん。
 あれ? ベッドが回転しだした?
 いやね江利子ったら、せっかちさん。じゃなくて。
 唇を突き出したままの聖が目をあけると、そこにはゆっくりと回る部屋を背景にした江利子の顔、ではなく腰が。
 「な、何してんの江利子?」
 「いろいろスイッチがあるのね」
 江利子は四つん這いになって、はいはいしながら枕もとのパネルにくいついている。なるほど、ベッドが回転してるから。じゃなくって、だから。
 「江利子、まさか……」
 「このスイッチは?」
 ぐいんぐいん。
 おわっと、ベッドの真ん中が上下しだした!?
 「ちょっと、江利子、やめ、うわ」
 聖もはいはいで近づこうにも、ベッドに跳ね上げられて邪魔されて。
 「へええ、面白ーい! これは?」
 うわっ、部屋がピンク色に暗転して、スターライトボールがキラキラと。
 「きれーい!」
 キラキラが走るばかりでない、江利子の瞳の熱っぽい輝きを見て、聖は嫌な予感に確信を持ってしまった。上下するベッドにごろごろ転がされながら。
 「江利子、あんたまさか私の涙も珍しいから」
 「えっ、何? あ、このスイッチは」
 「ちょっ、江利子」
 壁に映画が映写されて。ひいっ、怖い祥子みたいな女がっ。なんでホラーなの?!
 「うわ、怖ーい! ええとチャンネルは……」
 「待て、江利子、まって」
 最初のがホラーだったのがある意味マシってこともありうるのよこういう場所の映画では!
 「ま、まって」
 ごろごろとベッドにおもちゃにされながらも、なんとか聖は江利子にとびかかった。
 「江利子!」
 「きゃっ」
 その瞬間、すべった江利子の手が何かのスイッチを入れて。
 あんあんあんあん……。
 大失敗でぇす。
 「せ、聖のエッチっ!」
 ど、どっちのこと? 映画? それとも江利子を組み敷いていること?
 「ち、違う、誤解っ、どここれチャンネル」
 「ちょっとあんたたちっ!」
 バタンとドアが開いて、そこにはなんと。
 「よ、蓉子!」
 「よ、蓉子!」
 蓉子がドアを開けて立ちはだかっていた。ああなぜか、その姿が清い救いの女神に見える。ピンク色に照らされてるけど。星ぼしの軽薄なきらめきをその身に走らせているけど。
 「ド、ドアの鍵のスイッチも入れたの江利子?」
 「し、知らないわよ」
 「……ずいぶんと盛り上がってるようじゃない、あなたたち」
 「ち、ちがう、盛り上がってないない!」
 でも。
 ういいいい……ん。
 ぐいんぐいん。
 キラキラ〜。
 あんあんあんあん……。
 そして腕の下には江利子。
 ……盛り上がってないなんて、絶対信じない、誰も。
 つかつかと蓉子はベッドへと詰め寄り、私たちが回ってくるのを待ちながら。
 「……私の時はすぐ止めたくせに」
 「な、なんの話?」
 「えっ、あなた、蓉子とも? ひどい」
 「ひどいのはあんたでしょ江利子!?」
 ああ、蓉子、その構えは。
 「最っ低!」
 
 蓉子のグーパンチに殴り飛ばされながら。
 鼻血ごとキラキラに照らされながら聖は。
 江利子からは一瞬たりとも感じなかった愛を蓉子のパンチに感じて、満足した。


 (まだまだ続くの? 読みたいカップリングのリクエストはこちらまで→BBS


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初出リスト
初夜1『桃色の初夜』(2003.9.25@journal/10.24up)
初夜2『白い初夜』(2003.9.26@journal/10.24up)
初夜3『桃色の初夜2』(2003.9.27@journal/10.24up)
初夜4『サーモンピンクの初夜』(2003.9.28@journal/10.24up)



une Sable nouvelle a L'eau de rose 初夜シリーズ
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