une Kaoru Simabara nouvelle a L'eau de rose 紅薔薇の夜

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  紅薔薇の夜


 小笠原祥子は上機嫌だった。
 今もこうして椅子に座りながら、何をするわけでもなくただぼんやりしているだけで顔がにやけてくる。
 つけっぱなしのテレビは先ほどからくだらないバラエティ番組が流れているが、そんなこともお構いなしに祥子は今の幸せを噛み締めていた。
 それもこれも、自分の妹、祐巳のおかげと言って等しい。いや、祐巳がいなければ何もかもがつまらない。
そう、祐巳がいるだけで祥子の全てが満たされているのだ。
 もう一度言おう、小笠原祥子は上機嫌である。
 祥子はゆっくりとテーブルの上のティーカップへと手をのばし、つい、と滑らかな動作で持ち上げる。その動作だけでも絵になるお嬢様は、まるで愛する人にキスをするように静かに口をつけ、ティーカップを傾けた。
 口の中に流れ込む液体を、祥子は喉の奥に流し込むのさえ惜しむように味わう。まるでワインのように口の中で転がすのだが、脳へと伝わってくる情報は無味無臭で、唯一暖かいことだけが分かる。
 つまり、これはただの白湯なのだ。
 それでも、祥子はそれを何口にも分けて飲み干す。ゆっくりと、愛おしむように、慈しむように。
 突然、部屋のドアがノックされる。浸っていた祥子を邪魔する来訪者に、彼女は意外にも満面の笑みを浮かべて「どうぞ」と促した。
 ドアが開かれる。その先にはタオルを頭に巻き、パジャマ姿の祐巳が言葉どおり"ちんまり"と立っている。
「あ、お風呂ありがとうございました」
「そう。気持ちよかったかしら?」
「はい、とっても」
 いまだ湯気がのぼるその肌は、ほのかにピンク色に染まり、普段はあまり見られない彼女の色気が顔を覗かせる。
「それじゃ、お姉さまごきげんよう」
「祐巳。それじゃ学校と同じじゃない」
「あ、おやすみなさい。お姉さま」
 えへへ、と恥ずかしそうに笑いながら去っていく彼女を見送りながら、祥子はあることに気づく。
「いけない。せっかくの祐巳湯が―――」
 自分の花血(小笠原的修正)により赤く染まる祐巳湯を眺めながら呟く。
「まあ、いいわ。今日で補充も出来たことだし」
 そう言って飲み干した祐巳湯は、少し鉄の味がした。


〜終わり〜

〜あとがき/島原薫〜
 限界に挑戦。依然高みは見えません。

〜解題/砂織〜
 私にとって「鼻血の偉いひと」こと島原薫さまより頂いた、祥子さま御鼻血SS(ジャンル名)第三弾です。薫さん、ありがとう。好きよ。でも、私にはもう妹がいるの……。

 ……でもこのSSで薫さんは鼻血SSの限界に挑戦、というよりもむしろ、変態SSの限界に挑戦なさっているように感じるのは気のせい? ま、まあ、久しぶりのご投稿。リハビリですものね! インデペンデンス・デイですものね!? でも、「花血」のご造語は素敵。重ねてありがとうございました、薫さん。

 みなさまも薫さんへのご感想など、ぜひBBSまで。また、薫さんのSSがもっと読みたーい、という貴方は、当方ゲストコーナー所収のものの他、当方LINKからすかっちさまの「オレンジペコ」をご訪問なさって下さいね。

(2004.7.4up)

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